脳神経外科
診療内容
脳神経外科とは脳、脊髄、末梢神経系およびその付属器官(血管、骨、筋肉など)を含めた神経系全般の疾患のなかで主に外科的治療の対象となりうる疾患について診断、治療を行う医療の一分野です。
主な対象疾患
脳血管障害
脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血などの外科的治療
脳腫瘍
良性脳腫瘍、悪性脳腫瘍についての外科的治療
脊髄・脊椎・末梢神経障害
変形性脊椎症、椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症、脊髄腫瘍、脊髄・脊椎損傷、末梢神経障害に対する外科的治療
頭部外傷
外傷による頭蓋内出血、脳挫傷、頭蓋骨骨折などで救急医療として行われます。
先天性脳脊髄奇形
先天性水頭症、さまざまな奇形、二分脊椎などに対して外科的治療を行います。
以下の疾患群については一般的に脳神経内科での治療が対象ですが中には外科的手技で改善されることもあります。
機能的疾患
てんかん、パーキンソン病、不随運動、顔面けいれん、三叉神経痛、痛み
認知症
正常圧水頭症、脳血流低下などに対して外科的に高次機能を回復させうる場合があります。
炎症性疾患
脳膿瘍に対する外科的処置
学会認定
日本脳神経外科学会専門医研修プログラム研修施設
症状による病気の種類
頭痛
全人口の約3割は頭痛に悩んでいるといわれています。頭痛はいろいろな原因で起こりますが危険のない頭痛であることがほとんどです。ただ中にはクモ膜下出血や脳腫瘍のように放っておくと危険な疾患も隠れています。
日常生活習慣により起こる頭痛
二日酔い、睡眠不足、ストレス、疲れ、感冒から起こるものです。休養をとることにより改善しますが中にはうつ病の初期症状であることもあるので注意が必要です。
慢性的起こる頭痛
頭痛の6~7割は慢性的に起こるもので代表的なものに「片頭痛」と「筋緊張性頭痛」があります。
- 片頭痛
頭の片方が痛むからこう呼んでいる人もいますが正確にはそうではなく脳血管性の頭痛です。血管がセロトニンという脳内物質により正常以上に拡張することにより脳血管がひっぱられて痛みを生じるもので、はっきりとした原因はわかっていません。目の奥や後頭部がズキズキ痛み、吐き気を伴い寝込んでしまう位ひどくなることもあります。いわゆる「頭痛持ち」で遺伝性もいわれています。
- 筋緊張性頭痛
頭の皮膚の下にはすぐに骨があるわけではなく薄い筋肉に覆われています。疲れやストレス、睡眠不足が原因で筋肉に疲労が生じ筋肉が硬くなってしまいひっぱられることにより痛みを感じます。頭が重い感じがしたり、締め付けられる感じがしたり痛みの場所が移動するのが特徴です。
- 慢性硬膜下血腫
軽微な外傷の後に頭蓋骨と脳との間に1~2ヶ月ゆっくりと時間をかけて血液が貯留することがあります。 御高齢の方は麻痺で発症しますが若年の方は頭痛で発症します。
急激に起こる頭痛
- クモ膜下出血
突然の激しい頭痛が後頭部を中心に起こります。吐き気、意識障害を伴うこともありますが手足の麻痺は起こらないことが多いです。脳動脈瘤の破裂が原因であることがほとんどで緊急の治療が必要です。
- 脳内出血
頭痛や吐き気とともに手足がしびれたり、麻痺を生じたり、意識障害が起きたりします。 高血圧性のものがほとんどですが、頭部外傷後にも起こります。
クモ膜下出血はなぜ怖い?
その他脳が原因である頭痛
- 脳腫瘍
頭痛や吐き気とともに手足がしびれたり、麻痺を生じたり、意識障害が起きたりします。 高血圧性のものがほとんどですが、頭部外傷後にも起こります。
- 髄膜炎
風邪などの先行感染のあとに38度以上の高熱とともに首筋が張り、頭が締め付けられます。
- 三叉神経痛
顔面の片方がズキンズキンと痛み刺激により増強します。
しびれ
しびれは感覚障害のひとつで人それぞれで感じ方は異なります。じんじんするもの、ぴりぴりするもの、さわった感覚がわからないものと様々でその原因も多様です。
脳に原因があるもの
- 脳血管障害
脳出血や脳梗塞によって大脳皮質や末梢神経から感覚神経が通る部分が障害されるとその機能が障害され障害側の反対側の手足のしびれ(右脳なら左の手足)が起こります。
特に視床という部分に起こるとしびれとともに強い痛みを生じることがあります。また短時間で良くなる手足のしびれは脳梗塞の前触れである一過性脳虚血発作の場合があるため注意が必要です。
- 脳腫瘍
頻度としては少ないですがしびれや感覚鈍麻で発症することもあります。
脊椎(せぼね)に原因があるもの
- 変形性頸椎症
頸椎症は首の骨が加齢により変形して骨棘(こつきょく)という骨のどげができ、脊髄や脊髄から枝分かれした神経根(しんけいこん)とよばれる神経が圧迫や刺激を受けて、しびれ、痛み、脱力などの症状を発生させるものです。
- 頸椎椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは、骨と骨との間でクッションの役割をする椎間板の組織が飛び出し、脊髄や神経根を圧迫することにより上肢のしびれ、痛み、脱力などの症状が発生します。
- 頸椎後縦靱帯骨化症
脊椎を一本の柱のように連結するために椎体の回りにはいくつかの靱帯が存在しています。このうち椎体の後面にあるものを後縦靱帯(こうじゅうじんたい)とよび、この靱帯に骨ができてしまったものをいいます。場所的に脊髄の前に位置するためこれを圧迫し、しびれや運動麻痺を生じます。
- 腰椎椎間板ヘルニア
腰の骨のレベルで椎間板が飛び出して脊髄や神経根を圧迫すると下肢のしびれや痛み、脱力などの症状が発生します。
末梢神経に原因があるもの
- 胸郭出口症候群
脊髄からでて手や腕の方にいく神経や血管は、第一肋骨と鎖骨との間に出来た隙間を通ります。この隙間のことを胸郭出口と言います。なで肩や肩の下がっている人ではこの隙間が狭くなっていて、そのために神経や血管が圧迫され、手や腕のしびれや痛みを生じます。
- 手根管症候群
手にいく正中神経という神経は手首の関節の部分にあるトンネル状の管の中を通っており、この管のことを手根管といいます。手首をよく使う方ではこの手根管の部分で正中神経が圧迫されて手のしびれなどの症状がでてきます。しびれは夜に強かったり、手を振ると一時的に改善するのが特徴です。
内科的疾患が原因であるもの
- 糖尿病性神経障害
糖尿病では神経に栄養を送っている血管が障害され神経障害が起こります。細い末梢神経が侵されるのが特徴で指先や足先がなんとなくジンジンするしびれから始まります。悪化すると痛みも生じてきます。
しびれはこのようにいろいろな原因で発生します。しびれを感じたらあまり長い間放置せずに病院を受診することが大切です。急激に起こったしびれについては早急に専門施設を受診してください。
歩行障害
普段何気なく我々は2本足で歩行をして何の不自由も感じない人が多いと思います。人間が歩くということは実はかなり高度な能力であるのはこんな科学が発達した現在でも最近になってようやく2本足で歩くロボットが開発されたのを考えると御理解出来るでしょう。
人は様々な病態で歩行障害をきたし、主なものとしては次のような疾患があげられます。
脳に原因があるもの
- 脳血管障害
脳出血や脳梗塞によって大脳皮質や錐体路といって運動神経が通る部分が障害されるとその機能が障害され障害側の反対側の手足の麻痺(右脳なら左の手足)が起こります。つっぱって歩くような痙性歩行の状態となります。
- 脳腫瘍
脳血管障害が急激に起こるのと異なって脳腫瘍の場合は頭痛とともにゆっくりと歩行障害が起こってきます。小脳にできた腫瘍は明らかな麻痺は起こりませんが歩行のバランスが悪くなってきます。
- 脳の変性疾患
パーキンソン病に代表されます。この疾患では首が前に屈曲して、身体も前に傾く姿勢となり、上肢や下肢の関節が曲がって伸び切らず、小刻みに歩くようになります。歩くときも腕を振らず、動作が緩慢になります。
- 正常圧水頭症
脳は髄液という液体に覆われています。様々なことが原因でこの髄液の量が増加し、脳室(脳の中の部屋)が拡大することにより歩行障害を起こします。他に痴呆症状や失禁を伴うこともあります。
脊髄、脊椎に原因があるもの
- 頸椎症性脊髄症
頸椎(首の骨)の変性により頸髄(脊髄の首の部分)を通す脊柱管(脊髄を通す管)が狭くなってしまうため圧迫され症状をだします。つっぱった感じの痙性歩行になり、同時に首や肩、手の痛み、しびれを伴うこともあります。
- 腰部脊柱管狭窄症
入れている脊柱管が腰椎(腰の骨)のレベルで狭くなって脊髄、神経を圧迫します。歩いているうちにだんだんと腰や足が痛くなり、歩きづらくなります。少し休憩すればまた歩けるようになります。間欠性跛行(かんけつせいはこう)といいます。
下肢の血管に原因があるもの
- 下肢動脈閉塞症
お腹から足に向かって血液を供給する血管が狭窄していたり、場合によっては閉塞している事により起こります。歩行障害のパターンは腰部脊柱管狭窄症と似ていて歩いているうちに下肢が痛くなり、休むと症状が改善するという間欠性跛行を呈します。血流が低下するため足の冷感を生じます。
筋肉、骨に原因があるもの
- 変形性膝関節症
膝の関節が変性を起こすために、立って荷重をかけると膝が痛くて歩くのがつらくなってきます。
- 腰椎圧迫骨折
しりもちをついたような形で転ぶと腰椎(腰の骨)が上下につぶれてしまい強い痛みを生じます。痛みのため歩行困難になります。骨折が進行すると神経を押しつぶして両足が麻痺することもあります。
末梢神経に原因があるもの
- 種々の末梢神経障害
足の末梢神経は脳の命令の刺激を筋肉まで伝達する機能を持っています。ここが障害されると足の筋肉に力をいれることが出来なくなります。そのため、歩く時に足が下垂してしまい、下肢を高く上げても床からつま先が離れず、ずるようになってしまいます。
急激に起こった歩行障害については早急に専門施設の受診が必要です。
クモ膜下出血はなぜ怖い?
不幸は突然やってくる(急性発症)、働き盛りに多い(40-50代)、予後は決してよくない(全体の20%は搬送前に死亡、30%は手術適応なく入院後に死亡、予後良好なのは全体の35%程度である)
次の症状があった時にはすみやかに専門医を受診してください。
- 今までに経験したことがないような激しい頭痛が急激に起こった時
- 頭痛とともに手足のしびれや動きの悪さなどの神経症状を伴う時
- 強い吐き気や発熱などの症状が改善されない時
頭部外傷についてのお話
日常生活上頭部を打撲することは良くあることです。脳は頭蓋骨という非常に硬く厚い骨に覆われていて脳を守るヘルメットの役目をしています。また、脳自体が髄液という液体の中に浮かんで存在するため外部からの衝撃には強くできています。このため通常の頭部打撲で脳が損傷を受けることはまずありません。
頭のけがの種類
- 頭皮挫傷、挫創(頭の皮膚が傷つき出血したもの)、皮下血腫(たんこぶ)
- 頭蓋骨骨折(頭の骨にひびが入ったもの)
- 脳振盪(脳に損傷はないが一過性に意識のなくなったもの)
- 頭蓋内出血(脳の中に血腫が貯まったもの)
頭部の皮膚は血管に富んでいるため小さな傷からも多量の出血があることがあります。患部をガーゼなどでしっかり圧迫していればだいたい止血されます。皮下血腫は皮膚の下に血腫が貯留したもので通常は吸収されてしまいます。傷が開いているようならば縫合の処置が必要です。
頭部のX線撮影をおこなって骨折線があった場合でも脳の損傷とは必ずしも関係がありません。ただ安静にして経過を十分に観察することが必要です。
脳振盪の症状も意識が完全に回復すればまず心配ありません。ただ脳出血のなかにはしばらくしてから症状がでてくる事もあるためこの際も充分な経過観察が必要です。ですから頭を打撲した時には24時間は一人に放置しないで一緒にいてあげることが大切です。頭を打った直後から意識障害が続くときは頭蓋内出血の可能性が強く、このような場合には救急車を要請してでも脳神経外科のある病院にいく必要があります。
経過観察中、次のようなことがあったりした場合はすぐに連絡して来てください。
- 傾眠傾向が強くなっていくとき
- 吐き気、嘔吐を繰り返すとき
- 手足の動きが弱くなってくる、あるいはむしろ意味無く暴れるとき
- 言うことのつじつまが合わなくなったり、言葉がはっきりしなくなるとき
- けいれんをおこしたとき
- 鼻や耳から液体がでているとき(髄液漏の疑い)
とにかく頭を打ってしまったら、頭だから心配などと短絡的に怖がらずに、落ち着いて対応してください。
頭だから後遺症が心配というのは取り越し苦労で、普通は一日以上昏睡が続いたり、手術を必要とした場合ではない限り将来の心配はありません。
X線検査やCTも放射線の被曝量が問題になっており、必ずしなくてはいけない検査ではありません。
慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)について
頭部打撲をして、その時はCT上異常を認めなかった場合でも受傷より1~2ヶ月たった頃にゆっくりと骨と脳とのすきまに血液が貯留することがあり、頭痛や言語障害、痴呆症状、運動麻痺が起こってくる患者さんがいます。
これは慢性硬膜下血腫という病気で若い人に少なく中高年に多いこと、お酒を多く飲む人に多いと言われています。
局所麻酔で血液を抜くことによって症状は改善します。1~2ヶ月たった頃に上記のような症状がある場合は外来を受診してください。